抽象化って“圧縮”なんじゃない?──思考することが快感になる仕組み

──思考の快感と、知性の仕組みについて
「なんか、同じことで何度も驚いてる人っていない?」
「あー、いる。いるし、たぶんまた驚いてるね、今この瞬間も」
「あれってもしかして、“抽象化できてない”ってことじゃない?」
「うん、それ、つまり“脳内で圧縮されてない”ってことだよね」
そんな気楽な会話をAIと交わしていたら、うっかり思考の深みに落ちた。
どうやら「抽象化」とは、私たちの知性の中でも、かなり中核的な構造らしい。
■ 抽象化とは、“情報を再利用可能にする”圧縮である
たとえば、こういうことがある。
ある女性が蛇を見て絶叫する。
毎年、同じ石垣で。夏になると、必ずそこにいる蛇に対して。
それを見て私は思う。「今年も蛇がいる?いや、そりゃそうだろう」と。
でも、彼女の脳内では毎回初見らしい。蛇がそこにいるという“構造”が、記憶されていない。
つまり、「石垣+夏=蛇の可能性」という知識は、彼女にとって“まだ圧縮されていない未加工データ”なのだ。
……などと偉そうに書いているが、その絶叫を聞いて、毎回私も驚いているのだから、人のことは言えない。
■ 圧縮とは、共通項を見つけて「意味の塊」に変える作業
私たちが体験をただ記憶するのではなく、
- 共通するパターンを見出し、
- ラベルを貼り、
- 使いまわせる“知識”に変える。
これが抽象化=圧縮という思考プロセスだ。
それを一言で言えば、私はこう表現したくなる:
「なーんだ、こういうことか」って言える瞬間。
それが、脳が圧縮に成功したときの“快感”だ。
私にとって、それは公式を発見した感覚に似ている。
現実世界を小さな式にまとめてしまうような、言葉と構造が結びついたときの多幸感。
■ 圧縮ができない人の世界には、予測がない
では、あの“毎回絶叫する人”のように、抽象化できないまま世界を見ていると、どうなるのか?
- 昨日と今日がつながらない
- 学びが積み上がらない
- そして、予測ができない
結果として彼女の世界は、毎日が「初見プレイ」なのだ。
悪い冗談のようだが、これは真面目な話である。
こういう人の脳には“圧縮済みのパターン”が存在しない。
そのため、未来を予測できない。衝撃に備えられない。そして、毎回驚く。
■ なぜ圧縮は“高コスト”なのか?
ここで一歩引いて考えてみる。
なぜ誰もが圧縮できるわけではないのか?
理由は単純だ。
圧縮には、ものすごく脳のリソースを使う。
具体的には:
- 同時に複数の情報を保持するためのワーキングメモリ
- 共通項を見出すパターン認識力
- 言語化による構造の保存能力
- 「見たくないものを見ようとする」情緒的耐性
これらすべてを一気に動員しなければならない。
だから、“考える”という行為は、実のところ、脳にとっては贅沢な消費活動なのだ。
■ 知能とは、思考の“圧縮効率”のことでは?
このあたりで、私はふとこう思った。
知能とは、単なるIQではなく──
「どれだけ効率的に圧縮し、再利用できるか」ではないか?
同じ状況を経験しても、
- 圧縮して構造化し、次回に活かす人
- 生のまま保存して、また同じ反応を繰り返す人
この二者の差は、単なる性格の違いではなく、認知の階層そのものの違いだ。
前者の世界は、予測可能で静か。
後者の世界は、驚きと混乱に満ちている。
■ じゃあどうすればいいのか?
最後に、ここまで読んでくれたあなたに問いかけてみたい。
あなたは、今日のどんな経験を、まだ圧縮していないだろうか?
日常の苛立ち。人間関係の違和感。ふとした後悔。
それらを“構造として扱えるまで圧縮できるかどうか”が、思考力の差になる。
そして、AIと人間の決定的な違いも、そこにあるのかもしれない。
AIは、圧縮された構造には強い。
でも、それを発見しようとする遊び心までは、まだ持っていない。
■ まとめに代えて──“考える人”のための贅沢な遊び
抽象化とは、思考の快楽であり、知性の美学であり、
世界を“使いまわせる言葉”として手のひらに収めようとする、人間だけに許された魔法だ。
その魔法を、私はまだ使い続けたい。
あなたも、きっと。
……ところで。
抽象化と圧縮の話をしていて、ふと思った。「ああ、だから私は例え話が好きなんだ」と。
概念を、もっと軽く。
言葉を、もっとなめらかに。──“思考を、他人の脳にもインストール可能な形に変えること”。
次回は、例え話と知性の関係について、静かに言葉を紡いでみようと思う。
このシリーズについて
このブログシリーズでは、「人間の知性」と「AIの知性」の違いをテーマに、思考の仕組みを静かに掘り下げていきます。
- 抽象化とは“圧縮”である──知能と理解力の正体に迫る(今回)
- 例え話が上手い人は“圧縮型知能”の持ち主である
- “毎回初見の人”と話が通じない理由──時間軸を持たない人々
- AI時代、人類はIQ100に収束しない──“問い”を持つ者だけが昇る
- 世界を“母語”で読む人と、“外国語”で読む人の違い